サステナビリティの実効を伝え、“ウォッシュ”と言われないためには? ~社内外で前進を実感するためのTips~
アイプラネット サステナビリティLabの共創パートナー、横山泰治です。前回のシリーズコラムでは、「企業のあり方に沿うサステナビリティ」と、企業とステークホルダーが共に持続可能な存在になるための「共創」についてお話ししました。今回はより具体に触れていきます。
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「サステナビリティ対応」の本質
前回お伝えした通り、企業の持続可能性の具体化は“待ったなし”です。
今までのサステナビリティ対応への、経済価値とは直接的なつながりを感じにくい自然保護活動や社会貢献活動を通じた企業のブランド・イメージ向上のためという認識は、企業のみならず消費者においても根強くありました。
ですが、それらを取り巻く外部環境は近年より一層複雑化しており、企業はいかにサステナブルな経営で成長していくか、消費者は自分たちの生活をサステナブルに変えて次世代の負担を減らすかを問われています。
つまり、サステナビリティへの対応は、企業においては慈善活動やアピールではなく「経営の根幹」を成し、消費者側も心がけとして持つもの、余裕がある人だけが行なえば良いものではなく「生活の根幹」を成すものと言えます。
今回のコラムでは、緊急性・重要性も高い事項になった「サステナビリティ」や「共創」について具体的な行動で示す事が求められる今、具体的な行動とは何か、何を持って実効とするかをお伝えします。
まず、社内外からウォッシュ*と指摘されない正しい行動のためには「見える課題だけ扱う」のではなく、「企業のあり方」から取り組む意識が必要です。そして、その実効を測るには、課題に対応するデータの「定義の明確化」と、取り組む「当事者感覚」が必要になります。
*ウォッシュ:上辺だけの対応で、SDGsに取り組んでいると見せかけること。結果的に経営上の大きなリスクになり得る。
正しい行動は専門分野だけではなく、投資家・消費者・労働市場へのメリットも生む
サステナビリティにおいて、環境や労働災害分野ではすでに明確な定義がなされ、定義に基づいた対応は投資判断において重要視されています。
消費者市場では、消費者庁による令和5年度第3回消費生活意識調査において、エシカル消費につながる商品・サービスについて、「購入したいと思う」と回答した人の割合は58.3%となっています。
さらには、労働市場においても、就職先企業を選ぶ上で重視している点として「SDGsに対する姿勢や取り組み」が挙がっています。
各市場で選ばれるためには、財務や広報、労務など限られた部門だけで取り組むのではなく、企業の存在意義(パーパス)に基づき、経営戦略部門から現場、お客様に近い部門に至るまで、サステナビリティの取り組みを計画・行動している事実の発信が重要です。
また、理想の姿を描きつつ、実務負担及び優先順位などを考慮して、段階かつ計画的に実行する部分の見極めや、ウォッシュと指摘されそうな部分にも伴走できる第三者保証も必要です。
実効を測る基準の明確化が近道、だが課題次第で迷路にも
正しい行動の実効を測るためには、基準となるデータの定義の明確化と共に、その実施が社内で徹底されやすいかがとても重要です。
例えば、事業者のGHG(温室効果ガス)排出量算定及び報告基準である国際的な枠組みのGHGでは、製造などでの自社直接排出量を「Scope1」、電機や熱の自社利用での間接的排出量を「Scope2」と明確に分けています。さらに原料調達や製品使用のサプライチェーン排出量を「Scope3」とし、それぞれに明確な基準が定められています。
これらは基準が明確なだけに、GHGデータを人手を介さず収集、視覚的に理解し、連携・可視化する事で、排出量が特に多いポイントの見極めや、GHG削減に向けての分析・対策が取りやすくなっています。三菱電機インフォメーションシステムズ株式会社(MDIS)が開発した、GHG排出量データ一元管理ソリューション「cocono(ココノ)」では、各種集計業務の負担を軽減するとともに、GHGプロトコルの3つのスコープの排出量を見える化し、改善に向けた「気づき」が得られるクラウドサービスも展開されています。
ただ課題によっては、データの定義は明確でも、業界内や社内では徹底されにくいものもあります。
例えば、男女間の賃金格差は、2022年4月に女性活躍推進法が改正され、常時雇用する労働者が301人以上の事業主は「男女の賃金の差異」の情報公表が義務となりました。行動計画の策定を行うため、定義は明確です。
ただし、公表義務化対象である雇用区分別の「男女の賃金の差異」の中で、職階・勤続年数や職種、労働時間などの差によって「説明できる賃金差異」と、男女の条件を揃えたとしても残る「説明できない賃金差異」があるという調査結果*が出ています。
*出典:Source:2022TRSデータより 従業員1000人以上、日系企業、Career Level : Professional, Management、性別区分有効組織を抜粋しマーサージャパンで分析
上記調査によると、「説明できない賃金差異」は45万円前後とされており、この差異が社内風土や企業文化の部分に根付いていることから徹底されにくくなっています。
さらに、そもそもデータの定義自体がまだ無いものもあります。
2022年12月のCOP15において設定された、社会全体で自然の損失を食い止め悪影響を減らし、プラスに反転し、自然を回復・再生させる新たな国際目標「ネイチャーポジティブ」などは、まさに今からデータが定義され、基準が定まっていきます。
まとめ:突破口は「当事者感覚の醸成」にあり
では、どうすればいいのか?見える課題だけを扱うしかないのか?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、諦めず本質を見据えて取り組む先にのみ、真のビジネスチャンスと企業の持続的な成長があるとしたらどうでしょう。そのための突破口として、対極にある2つのケースをご紹介します。
参考資料「サステナブルな企業価値創造に向けたサステナビリティ関連データの効率的な収集と戦略的活用に関するワーキング・グループ報告書」(事務局:経済産業省 経済産業政策局企業会計室)
上図の通り、実はデータの定義が未成熟でも、当事者感覚が社員全体にあるのであれば、社内関係部署や経営層などとの対話によって「風土づくり」を行なう事ができます。これはまさに「会社のあり方」に直結するからです。
逆に、データの定義が明確で、実作業を行なう担当者間の意識さえ醸成されていれば、自分達の行動自体が作業の元データになる実感を得ながらの業務となり、円滑に実効を測ることができるのです。
アイプラネット サステナビリティLabでは、「サステナブルな社会をコミュニケーションのチカラで共に創っていく」をテーマに、今回のポイントに挙げた「社員全体やご担当へのサステナビリティや共創の意識醸成」支援から、「会社のあり方」の基となるパーパスの策定、プロダクトやサービスへの実装から展開まで、我々のような各分野の共創パートナーと共に、さまざまな企業活動の伴走支援を行なっております。ぜひお気軽にご相談ください。
次回のシリーズコラムでは、「社内から『とはいえ現実には難しい』が出てこないサステナ意識浸透の実例」についてお話しさせていただく予定です。